「プラネタリウム」(梨屋アリエ)

いわゆる「○○人間」。

「プラネタリウム」(梨屋アリエ)
 講談社文庫

第1話「あおぞらフレーク」
美野里は未来から、
通学路で出会う
素敵な大学生のことを
調べて欲しいと頼まれる。
美野里は心が不安定になると
体から踏切の警報音を発する
「踏切人間」。
未来は心がときめくと
その思いが結晶化し、
破片を散らす
「結晶人間」だった…。

面白いファンタジー小説を
見つけました。
特殊な能力を持っている少年少女の、
思春期特有の心の揺れを綴った
青春小説といえましょうか。
4つの連作短編集となっています。
「あおぞらフレーク」の美野里は、
その大学生の名前を調べるどころか、
一緒にデートまでしてしまいます。
ありがちな展開と
言えなくもないのですが、
この「踏切人間」と「結晶人間」の
掛け合いがユニークです。

第2話「飛べない翼」
中3の中也は、隣に住む
アザラシのような32歳の由子に
秘密を知られ、それ以来、
彼女に上手に使われてしまう。
中也は背中に翼が生えている
「翼人間」だった。
そして由子は悲しくなると周囲に
砂が降ってくる「砂人間」だった…。

それぞれの登場人物はみな
特殊能力を持っている、
いわゆる「○○人間」(本文中には
「踏切人間」しか、このような表現は
出てきませんが)です。
ワン・ピースをはじめとする
最近の漫画のような世界です。
しかし漫画と違い、
この能力が全く役に立っていません。
「飛べない翼」では、
翼があっても飛べないし、
降った砂で自分が埋まって
死にそうになっています。
この特殊能力が全く生かされない
「しょうもなさ」が
何ともいえず微笑ましいのです。

しかし、各話とも最期まで読みこめば、
その役に立たない能力が、
実はその子にとっての
アイデンティティとなっていることに
気付かされます。

第3話「水に棲む」
素敵なイラストを描く
先輩・紘夢は、常に体が
床から15cmほど浮いている
「浮遊人間」。
そんな彼に晴実は恋してしまう。
でも彼には
真貴ちゃんという彼女がいる。
そして晴実は悲しくなると
体がとけて水になる
「水人間」となって…。

テーマは「愛を知らない子どもたち」と
いうことになるのでしょうか。
美野里は他人をどのように
愛せばいいのかわからないために、
無意識のうちに
他人を傷つけてしまっています。
中也は背中の翼を気にするあまり、
他人に対して
無用の警戒心を持っています。
人を愛するのは難しそうです。
晴実は紘夢にふられたこと、
そして家族から阻害されている姉に
手をさしのべられなかったことから、
原形をとどめることが
できなくなるのです。

少しずつ悲しみの度合いが大きくなり、
第4話でそれは最大になります。

第4話「つきのこども」
磨布は今夜も
衣生の部屋に忍び込み、
抱き合って夜を過ごす。
磨布も衣生も家族から
正しく愛されてはいなかった。
衣生は森になることを願い、
ついには大きな樹木となった
「樹木人間」。
磨布は月へ帰ることを求め、
衣生と…。

特に磨布は性的ともいえる
児童虐待を受け、
心に傷を負っています。
同じように家族から愛されていない
衣生とともに、
現実世界に別れを告げるのです。
愛されることを知らないまま。

「○○人間」という
メルヘンチックな設定は、
この「愛を知らない」哀しみを
優しく包み込むオブラートのような
ものなのです。
おかしみの向こうに隠されている
哀しみをしっかり味わうべき作品です。

(2020.1.18)

Adam DereweckiによるPixabayからの画像

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